AI業務効率化の進め方は?対象業務を選ぶ3軸判定表と手段の分岐

AI業務効率化の進め方は?対象業務を選ぶ3軸判定表と手段の分岐

2026年8月13日

この記事の要点

  • AIによる業務効率化とは、これまで人の判断が必要だった読み取り・分類・要約・生成・検知をAIに肩代わりさせる取り組みで、手順が固定された作業を機械化するRPAやマクロとは適用範囲が違います
  • 効率化できるかどうかは業務名では決まりません。「入力データの構造化度」「判断基準を明文化できるか」「誤りの許容度」の3軸で判定します
  • 進め方は、業務の棚卸し→対象業務の選定→評価指標と撤退基準の設定→小さく検証→運用と改善の5ステップ。3番目を飛ばすとPoCで止まります
  • 既製SaaS/ノーコード+API連携/受託開発の分岐は、社内データがどこにどんな形で存在するかと、既存システムとの接続要件でほぼ決まります
  • 費用は相場の暗記より、費用を上下させる5つの変数(対象業務数・データ整備・連携本数・精度要件・運用保守)を押さえた方が見積もりを読めます

「AIで業務効率化できないか検討して」と言われたものの、自社のどの業務が対象になるのか、ツールを買えば済むのか開発が要るのか、判断材料がない。そんな状態で情報収集を始めた方が多いはずです。世の中の記事は活用事例とツール紹介に偏りがちで、発注する側が知りたい「向き不向きの見分け方」や「内製と外注の分かれ目」はあまり書かれていません。

この記事では、自社の任意の業務を自分で当てはめて判定できる3軸のフレームと、手段選定・内製可否・費用の決まり方までを整理します。読み終えたときに、次に何を紙に書けばいいかが決まっている状態を目指します。

目次

AIによる業務効率化とは?RPA・自動化との違いと現在地

AIによる業務効率化とは?RPA・自動化との違いと現在地

AI業務効率化とは、これまで人の判断が必要だった作業、たとえば文章の読み取り・分類・要約・生成・異常検知などをAIに肩代わりさせ、処理時間と属人化を減らす取り組みです。手順が固定された作業を機械化するRPAやマクロと違い、入力が非定型でも扱える点が最大の違いになります。だからこそ、対象業務の選び方が成果を大きく左右します。

AI業務効率化とRPA・マクロによる自動化は何が違う?

違いは「入力の型が決まっているか」と「判断を含むか」の2点に集約されます。RPAは決まった位置の項目を決まった手順で処理するのが得意で、AIはフォーマットがばらばらな文書や自由文の意図を扱えます。両者は代替関係ではありません。

比較軸 RPA・マクロ AI(機械学習・生成AI)
扱える入力 形式が固定された定型データ フォーマットが揃わない文書・自由文・画像
手順の固定 必要(手順を全部書く) 不要(判断部分を任せる)
例外への強さ 弱い。想定外で止まる ある程度対応するが誤ることがある
導入時に必要な準備 操作手順の整理 データの整備と判断基準の言語化
向く業務例 同一様式の請求書をシステムへ転記 様式がばらばらな請求書の読み取り、問い合わせの意図分類

実務では「AIが非定型の入力を判断し、確定した処理をRPAが実行する」という組み合わせが現実的です。すでにRPAを入れている企業ほど、止まりやすい例外処理の部分だけAIに置き換える発想が効きます。

国内企業のAI活用はどこまで進んでいる?(公的統計)

国内企業のAI・生成AI活用は広がっている一方で、米国や中国など諸外国と比べると利用が進んでいない傾向が公的資料で示されています※1。企業規模でも差があり、体制や人材の面で中小企業の取り組みが後ろになりやすい状況です※2。焦って全社導入に走る必要はありません。

総務省『情報通信白書』では、生成AIの利用意向や企業での活用状況が国際比較とあわせて継続的に扱われています※1。またIPA『DX白書』では、DX推進を担う人材の不足や、企業規模による取り組み状況の差が繰り返し指摘されています※2。いずれも年次で更新されるため、稟議資料に使う場合は最新版の数値を必ず確認してください。

読み取るべきなのは「うちは遅れている」という焦りではなく、多くの企業が同じ段階にいるという事実です。先行事例が少ない領域では、他社の真似より自社業務の適性判断のほうが価値を持ちます。

AIで効率化すると、どこに効果が出る?(3つの効果類型)

効果は処理時間の削減、品質のばらつき低減、属人化の解消の3つに整理できます。稟議で説明しやすいのは処理時間ですが、中長期で効いてくるのは後ろの2つです。それぞれ測る指標を先に決めておくと、後の投資判断が軽くなります。

  • 処理時間の削減:1件あたり処理時間、月あたり総処理件数
  • 品質のばらつき低減:差戻し件数、手戻り率、クレーム件数
  • 属人化の解消:特定担当者1人に依存している業務の本数、引き継ぎ所要日数

ここで挙げた指標は、後半で扱う評価指標と撤退基準の設計にそのまま使います。

※1 総務省「情報通信白書」リンク

※2 IPA「DX白書」リンク

AIで効率化できる業務・できない業務の見分け方は?3軸の判定表

AIで効率化できる業務・できない業務の見分け方は?3軸の判定表

AI向きかどうかは業務名では決まりません。入力データの構造化度、判断基準を明文化できるか、誤りが起きたときの許容度という3軸で判定できます。3つとも高ければ即着手、1つでも致命的に低ければ、対象から外すか業務設計そのものを変えるのが妥当です。

軸1:入力データは構造化されているか

AIに渡す情報が、どこに・どんな形式で・誰でも取り出せる状態にあるかを見る軸です。ここが低いと、AI開発の前にデータ整備の工程が丸ごと追加され、費用と期間を最も押し上げます。

  • 高:基幹システムやスプレッドシートに一元化され、社内の誰でも抽出できる
  • 中:PDF・メール・チャットに散在するが、デジタル化はされている
  • 低:紙、担当者のローカルPC、口頭引き継ぎ、頭の中

低に該当する場合、最初にやるべきはAI導入ではなくデータの置き場所と形式を決めることです。この工程を見積もりから外したまま発注すると、着手後に必ず追加費用の話になります。

軸2:判断基準を言葉で説明できるか

ベテランが無意識にやっている判断を、他人に説明できる文章やルールに落とせるかを見る軸です。落とせない業務は、AIの出力が正しいかどうかを評価することすらできません。評価できなければ本番化の意思決定も進みません。

  • 高:マニュアルやチェックリストがあり、判断のぶれが小さい
  • 中:人によって基準がぶれるが、議論すれば合意できる
  • 低:暗黙知で、言語化を試みたこともない

低の場合、AI導入プロジェクトの実態は「業務基準の言語化プロジェクト」になります。この部分は業務を知っている社内の人でないと決められないため、外部に丸投げできません。逆にここさえ社内で握れれば、開発は外に出せます。

軸3:誤りが起きたときにどこまで許容できるか

AIは一定の確率で誤ります。前提を変えられない以上、誤りが業務に与えるダメージの大きさで適用形態を変えるしかありません。許容度が低い業務では「AIが判断する」のではなく「AIが下書きし、人が承認する」設計にします。

許容度 業務の例 推奨する人の介在
社内向けの下書き、議事録要約、情報収集 原則自動、抜き取り確認
顧客向け一次回答、見積書ドラフト 人が承認してから送付
契約審査、与信判断、安全・医療に関わる判断 AIは補助のみ。判断は人が行う

3軸判定表:自社の業務を当てはめてみる

3軸を高・中・低で採点し、判定と推奨アプローチを対応づけたものが下表です。自社の業務名を左端に書き足して採点すれば、最初に着手すべき候補が見えてきます。

業務例 データ構造化度 判断基準の明文化 誤りの許容度 判定 推奨アプローチ
問い合わせメールの一次回答案 即着手 下書き生成+人が承認
議事録の要約 即着手 既製ツールで検証
請求書・注文書のデータ化 即着手 AI読み取り+既存システム連携
社内規程・マニュアルの検索 即着手 社内文書を参照する検索型AI
日報からの日次レポート作成 条件付き 日報の入力形式を先に統一
見積書のドラフト作成 低〜中 条件付き 価格ルールの言語化が先
人事評価の判定 現時点で不向き 集計・要約の補助にとどめる
与信判断 現時点で不向き スコア提示のみ、判断は人

3軸のどれかが低いときの打ち手は3つです。データ構造化度が低いならデータ整備を先行させます。判断基準の明文化が低いなら、業務担当者を集めて基準を文書化するところから始めます。誤りの許容度が低いなら、全自動をあきらめて人の承認を挟む設計に変えます。いずれも、発注前に社内で決めるべき事項です。

AI業務効率化のメリット・デメリットと、つまずきやすい課題

メリットは時間削減・品質安定・属人化解消の3点、デメリットは精度の不確実性・情報管理リスク・現場に定着しないことの3点です。そして実際に最も多い失敗は技術的な問題ではなく、PoC(試験導入)で止まって本番化の判断ができないまま終わることにあります。

AI業務効率化の主なメリットは?

メリットは、それぞれ測る指標とセットで理解すると稟議で説明しやすくなります。工数削減は「月あたり削減時間×人件費単価」で試算でき、品質面は差戻し率の低下、属人化解消は担当者不在時の業務停止リスクの低減として表せます。

たとえば、1件15分かかる問い合わせ返信が月200件あるとします。下書き生成で1件5分短縮できれば月あたり約16時間の削減。仮に時間単価3,000円なら月5万円弱の効果です。これは説明のための仮の計算であり、実際の削減幅は業務と精度によって変わります。数字を出すときは前提条件を必ず添えてください。

人手不足の文脈では、削減そのものより「既存人員のまま処理量を増やせる」点が中小企業には響きます。採用が難しい職種ほど、この効果の意味は大きくなります。

デメリット・リスクは?(精度・情報管理・現場定着)

デメリットは、出力が必ずしも正しくないこと、入力する情報の管理と契約条件の確認が必要なこと、そして使われずに終わるリスクの3つです。いずれも技術ではなく設計と運用でしか抑えられません。

精度については、誤りをどこで検知するかを決めていないシステムは危険です。誰がいつ確認するのかを業務手順に組み込みます。情報管理では、社外のAIサービスに社内データを入力する際に次の点を契約前に確認してください。

  • 入力データが学習に利用されるかどうか
  • データの保存期間と削除の可否
  • 保存先のリージョン(国内か国外か)
  • 個人情報を含む場合の取り扱いと委託先管理の要否※3
  • ログの管理範囲と、社内の誰がアクセスできるか
  • 再委託先の有無

個人情報を含むデータを外部サービスに渡す場合、個人情報保護法上の委託や第三者提供の扱いを整理しておく必要があります※3。また、AIの開発・利用にあたって事業者が配慮すべき考え方は、国のガイドラインとして公表されています※4

定着については、既存の業務手順を変えないまま導入すると、従来のやり方とAIを使うやり方の二重運用になり、忙しい現場は必ず慣れた方に戻ります。ツールを配って終わりにしないこと。加えて、AIサービスは月額課金と運用工数が継続的に発生します。初期費用だけで判断しないでください。

PoCで止まるのはなぜ?典型パターンと撤退基準の決め方

PoCが止まる原因の多くは技術ではなく、始める前に「何ができたら本番化するのか」を決めていないことです。判定基準がないまま検証すると、結果が出ても意思決定できず、担当者の異動とともに立ち消えになります。

典型的なパターンは次の4つです。目的が「AIを試すこと」自体になっています。評価が「思ったよりすごい/期待外れ」といった主観で終わっています。現場の代表者が入っておらず、情シスだけで完結しています。本番化に必要な既存システム連携や権限管理を後回しにし、いざ本番という段階で作り直しになります。

着手前に紙に書いておくべきことは3点だけです。

  1. 評価指標:何を何%改善したら成功か(処理時間、誤り率、週あたり利用率など)
  2. 判定期限:いつ時点のデータで判定するか
  3. 撤退基準:この水準に届かなければ止める、という明文化された線

撤退基準を先に決めると、投資判断が軽くなります。止め方が決まっていない案件は、決裁者が最初の一歩を承認しづらいからです。逆に「3か月後にこの水準に届かなければ終了」と書いてあれば、小さく始めることへの心理的な抵抗は下がります。

※3 個人情報保護委員会「個人情報保護法」リンク

※4 経済産業省・総務省「AI事業者ガイドライン」リンク

AI業務効率化の進め方は?5ステップで解説

AI業務効率化の進め方は?5ステップで解説

進め方は、業務の棚卸しと可視化、3軸判定による対象業務の選定、評価指標と撤退基準の設定、小さく作って現場で検証、運用と改善の体制づくりの5ステップです。3番目を飛ばすと4番目で判断できなくなります。期間の目安は、棚卸しから対象選定までで数週間、検証で1〜3か月ほど。あくまで対象業務と手段によって変わる目安です。

  • STEP1:業務を棚卸しして工数を見える化する
  • STEP2:3軸判定で対象業務を絞る
  • STEP3:評価指標・判定期限・撤退基準を決める
  • STEP4:現場の実業務のなかで小さく検証する
  • STEP5:本番運用と改善の担当を決める

STEP1〜2:業務を棚卸しして、対象業務をどう選ぶ?

棚卸しは「頻度×1件あたり時間×担当者数」で工数を見える化し、そのうち3軸判定で高評価だったものを最初の対象に選びます。感覚で「あの業務が大変そう」と決めると、後で効果を説明できません。

棚卸しシートに置く列は、業務名/頻度/1件あたり時間/年間工数/担当者/使用システム/3軸判定の7つで足ります。Excelで十分です。

最初の対象は、インパクトが最大の業務ではなく「効果が測りやすく、失敗しても業務が止まらない業務」を選んでください。理由は単純で、1件目の目的は成果そのものより、社内に判断基準と進め方の型を作ることにあるからです。基幹業務からいきなり始めると、失敗できないぶん検証が慎重になり、意思決定が遅れます。

STEP3:効果を判定する指標はどう決める?

指標は「導入前の実測値」とセットでなければ意味を持ちません。着手前に現状値を測ることが、このステップの最重要事項です。後から「前はどのくらいでしたか」と聞いても、記憶で答えた数字では比較になりません。

指標は3つの型で考えます。処理時間系(1件あたりの所要時間)、品質系(誤り率、差戻し率)、定着系(週あたりの利用者数・利用率)。生成AIのように正解が一つに定まらない業務では、出力をサンプル抽出して人が採点する方法をとります。その際、評価者を複数にすること、評価基準を事前に文書化することの2点を守ってください。評価者が1人だと、その人の好みが基準になってしまいます。

ここで決めた指標を、前のセクションの撤退基準とセットで運用します。

STEP4〜5:検証から本番運用・改善までに必要なことは?

検証は、現場の担当者が実業務のなかで使う形で行います。そして本番化の前に、セキュリティ・既存システム連携・運用担当・改善サイクルの4点を決めておきます。情シスだけで検証を完結させると、現場の手順に合わない部分が見えないまま本番に進み、結局使われません。

本番移行時に後から出てくる要件は、だいたい決まっています。ユーザーごとの権限管理、操作ログの保存、既存システムへの結果の書き戻し、監査対応の記録。これらは検証段階では不要でも、本番では避けられません。見積もり比較の段階で、これらが含まれているかを確認してください。

運用開始後は、AIの出力品質が放置されると徐々に実態と合わなくなります。商品や規程が変われば、参照させているデータも更新が必要です。定期的な出力レビューと、プロンプトやデータの更新担当を決めておくこと。この担当をどう確保するかが、次のセクションの「4つの役割」につながります。

既製SaaS・ノーコード・受託開発のどれを選ぶ?内製の可否と費用の決まり方

既製SaaS・ノーコード・受託開発のどれを選ぶ?内製の可否と費用の決まり方

手段の分岐は「社内データがどこにどんな形で存在するか」と「既存システムとどこまで接続する必要があるか」の2点でほぼ決まります。標準機能で完結するなら既製SaaS、業務手順は自社固有でもデータが整っていて連携が数本ならノーコード+API、社内データの前処理や基幹システム連携が必要なら受託開発が現実的です。

既製SaaS/ノーコード+API連携/受託開発の分岐条件は?

既製SaaSは業務が一般的で自社固有データを大量に参照しない場合、ノーコード+API連携は業務手順が自社固有でもデータがSaaS上に整っている場合、受託開発は社内データが散在し前処理や基幹システムへの書き戻しが必要な場合。この3分岐で考えます。

比較軸 既製SaaS ノーコード+API連携 受託開発
適する業務 議事録、文字起こし、FAQ応答 自社手順に沿った申請・集計・通知 基幹業務、非定型文書の処理
社内データの扱い 参照は限定的 SaaS上のデータを参照 複数システム・非構造データを前処理
既存システム連携 ほぼ不可か標準連携のみ 数本まで現実的 本数・方式ともに自由度が高い
費用の性質 月額中心 月額+構築の一時費用 初期開発費+保守費
導入期間の目安 数日〜数週間 数週間〜数か月 数か月〜
変更のしやすさ 提供機能の範囲内 担当者が変更できる 改修依頼が必要
向かないケース 機密データを扱う/要件が固有 連携が多い/大量データの前処理 要件が固まらず小さく試したい段階

判断に迷ったときのチェックリスト

次の項目に「はい」で答えられるほど既製SaaSやノーコードで足り、「いいえ」が増えるほど受託開発寄りになります。

  • 参照させたい社内データは1つのシステムに揃っているか
  • 対象データに紙やスキャンPDFが混ざっていないか
  • データの形式は担当者が変えても壊れない状態か
  • 既存システムへ結果を書き戻す必要はないか
  • 連携先は3本以内におさまるか
  • 出力の誤りが顧客に直接届く業務ではないか
  • 社外SaaSに入力できない機密データは含まれていないか
  • ユーザーごとの権限管理や操作ログの保存は不要か

内製と外注はどう判断する?社内に必要な4つの役割

内製の可否はエンジニアの有無ではありません。業務要件を決める人、データを整備する人、出力の正誤を判定する人、運用後の改善担当という4つの役割が社内で確保できるかで決まります。どれか欠けると、外注のほうが現実的になります。

  • 業務要件を決める人(現場の業務責任者):欠けると、何をどこまで自動化するかが決まらず要件が揺れ続けます
  • データを整備する人(情シス・データ管理担当):欠けると、AIに渡すデータが揃わず開発が止まります
  • 出力の正誤を判定する人(業務のベテラン):欠けると精度を評価できず、本番化の意思決定が永久にできません
  • 運用後の改善担当(運用オーナー):欠けると導入直後だけ使われ、半年後には形骸化します

切り分けとしては、業務要件を決める人と正誤を判定する人は業務知識が前提なので外注しづらく、データ整備と運用改善は外部で補いやすい領域です。つまり「社内に業務を語れる人が2人いるか」が、内製・外注どちらを選ぶにしても最低条件になります。この2人が確保できないまま発注すると、外注先も要件を決められず、プロジェクトは進みません。

費用は何で決まる?見積もりを左右する5つの変数

相場を覚えるより、費用を上下させる変数を押さえた方が見積もりを読めます。変数は、対象業務の数、データ整備の要否、既存システム連携の本数、求める精度水準、運用保守の範囲の5つです。金額の妥当性は、この5つがどう見積書に反映されているかで判断します。

  • 対象業務の数:業務ごとに要件定義と検証が必要なため、まとめて依頼しても単純な割り算にはなりません
  • データ整備の要否:紙・PDF・属人管理のデータが対象だと、前処理工程が費用を最も押し上げます
  • 既存システム連携の本数:連携1本ごとに設計・実装・テストが積み上がります。API公開の有無でも差が出ます
  • 求める精度水準:人の承認を挟む設計にすれば要求精度を下げられ、検証工数もコストも抑えられます
  • 運用保守の範囲:障害対応、モデルやプロンプトの更新、問い合わせ対応のどこまでを含むかで月額が変わります

ソフトウェア開発の工数と規模の関係は、公開されている実績データからもある程度の傾向を確認できます※5。見積書を比較するときは、総額の大小より「どの工程がどれだけの工数で積まれているか」を見てください。工程の内訳が出てこない見積もりは、後から追加費用が発生しやすい傾向があります。金額のレンジについては、AI開発の費用相場と内訳を扱った記事もあわせて確認すると判断しやすくなります。

見積もりのどこを見るべきか、一緒に整理します。hikeに相談する

中小企業はどこから着手すべき?現実的な第一歩と支援制度

中小企業は全社展開ではなく、効果が測りやすく、失敗しても業務が止まらず、既存システム連携が不要な業務から着手するのが現実的です。この3条件を満たす業務は、たいていバックオフィスと営業事務のあたりにあります。

  • 問い合わせ返信の下書き:判断基準が明文化しやすく、人の承認を挟めるため許容度も確保できます
  • 議事録の要約:入力(録音・文字起こし)が構造化しやすく、誤りの影響が社内にとどまります
  • 社内規程・マニュアルの検索:既存文書がそのまま材料になり、連携が不要です
  • 提案書・見積書のドラフト:過去資料が揃っていれば着手可能。価格ルールの言語化が前提です
  • 日報の集計とレポート化:入力形式を統一できれば効果を測りやすい業務です

公的な支援制度としては、中小企業向けにIT導入補助金などの枠組みがあります※6。ただし対象経費・補助率・申請要件は年度ごとに変わります。本記事は2026年時点の情報のため、必ず最新の公募要領で確認してください。制度ありきで対象業務を選ぶと、使われないツールが残る結果になりがちです。

専任担当を置けない企業ほど、設計段階から外部パートナーに入ってもらうほうが結果的に費用を抑えられる場合があります。対象業務の選定を誤ったまま開発に進むと、作り直しの工数がそのまま費用になるからです。

※5 IPA「ソフトウェア開発分析データ集」リンク

※6 独立行政法人中小企業基盤整備機構「IT導入補助金」リンク

まとめ:AI業務効率化は「業務の選び方」で9割決まる

AI業務効率化の成否は、ツールの性能より対象業務の選び方と事前の決めごとで大きく変わります。この記事の要点を整理します。

  • 適否は業務名ではなく、データの構造化度・判断基準の明文化・誤りの許容度の3軸で判定する
  • 着手前に、評価指標・判定期限・撤退基準の3点を紙に書いておく
  • 手段の分岐は、社内データの持ち方と既存システム連携の要件で決まる
  • 内製の可否は、業務要件・データ整備・正誤判定・運用改善の4役割が揃うかで判断する
  • 費用は相場より、対象業務数・データ整備・連携本数・精度要件・運用保守の5変数で読む

次にやることは3つです。業務棚卸しシートを作り、頻度と1件あたり時間から年間工数を出します。3軸判定で候補を3つに絞ります。手段の分岐チェックリストで、自社が受託開発の領域に入るかを確認します。ここまでできていれば、外部に相談する際も話が具体的に進みます。

判定に迷う場合は、現状の業務内容とデータの持ち方を共有していただければ、どの手段が適するかを整理できます。あわせて、AI開発の費用の決まり方や進め方を扱った記事も参考にしてください。

よくある質問

AI業務効率化はどれくらいの期間で効果が出ますか?

対象業務と手段によって幅があります。既製SaaSで完結する業務なら数週間で運用に乗るケースがあり、受託開発を伴う場合は要件定義から本番までで数か月が目安です。ただし効果を数字で示すには、導入前の実測値を取っておく必要があります。着手前の計測を省くと、期間にかかわらず効果を説明できません。

ChatGPTなどの生成AIを社内で使うだけでも業務効率化になりますか?

効果は出ます。ただし個人の使い方に依存した範囲にとどまり、全社的な効果測定と定着にはつながりません。対象業務、入力してよい情報の範囲、出力の評価方法の3点を決めることが前提です。この3点を決めるだけでも、使う人と使わない人の差は縮まります。

社内データを外部のAIサービスに入力しても大丈夫ですか?

サービスごとに学習利用の有無・保存期間・保存先が異なるため、契約条件の確認が必須です。個人情報を含む場合は委託や第三者提供の扱いも整理してください。機密度の高いデータは対象業務から外すか、閉じた環境での構築を検討するのが安全です。判断に迷う場合は法務部門を早い段階で巻き込んでください。

AIを導入すると人員削減が必要になりますか?

中小企業では、削減より「既存人員のまま処理量を増やす」「空いた時間を付加価値業務に回す」目的で導入されるケースが中心です。どちらを目的にするかは、導入前に経営として決めておくべき事項になります。目的が曖昧なままだと、現場の協力が得られず定着しません。

エンジニアが社内にいなくてもAI業務効率化はできますか?

既製SaaSやノーコードの範囲であれば可能です。ただし、業務要件を決める人と出力の正誤を判定する人は社内に必要になります。この2つの役割は業務知識が前提のため外注しづらく、確保できない場合は手段を問わず成果が出にくくなります。

RPAをすでに入れていますが、AIに置き換えるべきですか?

置き換えではなく併用が基本です。入力が非定型で人の判断が必要な部分をAIが担い、処理内容が確定した後の作業をRPAが実行する分担が現実的です。RPAが例外で止まりやすい箇所を洗い出し、その前工程だけをAIに任せる形から検討してみてください。

参考文献

  • 総務省「情報通信白書」リンク
  • IPA「DX白書」リンク
  • 個人情報保護委員会「個人情報保護法」リンク
  • 経済産業省・総務省「AI事業者ガイドライン」リンク
  • IPA「ソフトウェア開発分析データ集」リンク
  • 独立行政法人中小企業基盤整備機構「IT導入補助金」リンク